■なぜアシロは「失敗したい人」を求めるのか? 激変期を乗り越える企業カルチャーと「執着心」

――企業の在り方として重要視していることを教えてください。 中山 プロダクト作りを大切にしています。同じ事業を100年間やり続けることはできません。一つの事業を作ったらすぐに次の事業、またその次の事業と、新しいものを次々に生み出せる遺伝子やカルチャーが社内にあるかどうかが、企業としてかなり重要なポイントだと思います。 新しい事業は経営者以外の人間が作るのは難しいんですが、社員に新しいことにチャレンジするようにしつこく言い続けると、既存事業のマイナーチェンジをしたり、私の知らないプロダクトを生み出したりといったことが自然発生的に出てくるんですよね。それが成功するかどうかはともかく、そういう試行錯誤が非常に重要だと思っています。 ――経営者としての意思決定において「これだけは譲れない」という価値観はありますか。 中山 市場のルールの中で正々堂々とやることを意識しています。私自身、裏をかいたり、誰かを排除したりといったことができるタイプではありません。社員に対しても他のお客さまに対してもユーザーに対しても、正々堂々やるようにしています。 ――企業の急成長期には組織崩壊やカルチャー変質のおそれもあると思いますが、それらを防ぐためにどのような工夫をされているのでしょうか。 中山 そういった変化自体を、あまりリスクだと評価していません。むしろ、そういった変化に柔軟でありたいと思っています。そう考えていれば、結果として変化や進化しようとする社員を妨げてしまうような事象もなくなります。余計なことをせず、ちゃんと給料を払って働き方を教えて、社員同士が仲良くしながら普通に生活できていれば、辞めることもないし、組織も崩壊しないと思います。 そのためにも、人事評価だけはこだわって作っています。評価されるべき人間が正しく評価される仕組みだけは作っておかなければならないと思っています。 ――人事評価のこだわりポイントについて、お話しできる範囲で教えていただけますでしょうか。 中山 定量評価と定性評価のバランスを取ることと、結果だけにフォーカスしないことを意識して評価に入れ込むようにしています。定性的に評価できることは、最終的に定量的な成果につながるので、「これをやり続けている人間は最終的に成果が出るよね」というポイントを逃さないようにしています。 ただ、人事評価は企業における“サグラダ・ファミリア”のようなもので、完璧なものは完成しないものですので、適切な評価をし切れていない部分もあることを前提として、なるべく多くの社員が納得できる評価制度に近づけ続けるつもりです。 ――では、採用や人材の育成において大切にしているポイントはありますでしょうか。 中山 私が採用に関わらないことがすごく重要なポイントです(笑)。私は信じ込みやすいタイプで、誰の言うことも信じて採用してしまうので、人事担当からは「もっと厳しく選考したいので私たちに任せてください」と言われています。 ――貴社のリクルートサイトには「求む、失敗したい人」と書かれています。 中山 当社の定性評価は、失敗した人間を評価するようになっています。難しいことだとは思いますが、恐れずにチャレンジできて、失敗してみたい人を求めているのです。

採用ページには「あなたにとって、これまでの失敗は"本当に失敗"か。我々とさらに大きな失敗をしないか。求む"半端じゃない失敗"をしたい人間。」とのメッセージが書かれている。 たとえばある社員が1,000万円ぐらいの損失を出した場合、めちゃくちゃ青ざめた顔で帰ってくるんですけど、そこに1,000万円以上の学びは絶対にありますし、それだけの投資対効果が期待できるんですよ。何をすればうまくいくかというメソッドと同じくらい、何をしたら失敗するリスクがあるかは重要ですし、私としては早く失敗してほしいんですよ。子どもだって転びながら成長するのが普通のことですよね。ビジネスにおいても当てはまることで、失敗しない大人は成長しないと確信しています。 ――経営者として目標を達成するために最も大事な能力とは何だと考えていますか。

中山 気合と根性です。言うなれば執着心ですね。最初のうちはうまくいかないこともあると思いますが、「絶対に成果を出すんだ」という執着心を持ち続けて行動していれば、最後は納得できる結果につながります。途中で折れてしまったらそこまでですし、執着心が一番重要だと思います。 ――気合や執着心が大事だと思うようになったきっかけは何でしょうか。 中山 世の中を見渡してみると、それらを備えた人間は、満足せずに高みを目指し続ける人間が活躍する傾向にあるんですね。8合目まで登って「もういいや」と思う人と、10合目まで登り切った後に下山し、さらに高い山を目指す人とでは、成果が大きく変わります。 人間の能力に大差はないと思っていますので、結果を左右するのはどういう成果を出したいかという志と、決めたことに対して成果が出るまで取り組み続ける気合と執着心なのではないでしょうか。 ――では、経営者として最も大切にしている言葉は何でしょうか。 中山 倫理観です。もっと平易に表現すると「人に迷惑かけない」ですね。執着するがゆえに誰かに迷惑をかけてもいいわけではありませんので、「人に迷惑をかけずに執着する」という優先順位です。 私自身、幼少期には周りの大人にめちゃくちゃ迷惑をかけて育ったので、大人になってからは迷惑をかけないように心掛けていますし、経営者は上から目線で人生を語るなど、世の中に迷惑をかけがちだと思うんですよ。私自身もそういった人種にグルーピングされているはずなので、なるべく迷惑をかけないように何よりも倫理的であることを心がけています。